5月 17, 2015

トレードでの適者生存とネオテニー


「最も強いものが生き残るのではなく
最も賢いものが生き延びるのでもない
唯一生き残ることが出来るのは
変化に対応できるものである」

ダーウィンが進化論の中で言ったといわれる言葉ですね。
一般では覚えてる方は少ないかもしれませんが、トレーダーなら知らない人はまずいないと思われる(笑)名格言の一つです。



実際にはダーウィンはそんなこと言っていないという話もありますが、昔IBMのCEOが引用したあたりから広まったと思われるこの言葉は、今では世界中で流布している言葉でもあります。

この場合の生き残るというのは、一番になるとかその世界の王者になるとかそういうことではなく、文字通り「ただ生き残る」ということです。
そしてこの「ただ生き残る」能力がトレードでは必要十分な力なわけです。複利を使える投資の世界では生き残れる能力さえあれば自分が望むだけの利益を生むことが可能になってきます。逆に言えばただ生き残ることすら難しい世界ということでもありますが。

ではこの生き残るための唯一の能力、「変化に対する対応」とはどういうことなんでしょう。一言で言えば柔軟さですよね。それならどうすれば柔軟さを得られるのか。
実際に自然界で生き残りそれをほぼ征してしまったのは人間です。人間はなにをしてきたのか?

自然界ではネオテニーという現象があります。日本語で幼態成熟と言うそうです。
これは簡単に言うと幼児期の状態、特徴を維持したまま成熟していく現象のことで、よく例に出るのはウーパールーパーです。両生類は普通成長するにつれてカエルのようにえら呼吸から肺呼吸へと変化していくのですが、こいつは成長してもえら呼吸をしつつ足も生えているという変わり種です。こういう未成熟な状態をわざと維持することでその時の環境に対応する現象をネオテニーと言います。
幼児期の柔軟さを維持することが変化に対応する力になるということです。
人間の進化の過程でもこのネオテニーが大きな影響を与えているという説があります。人間の場合は脳の進化になりますが、生まれてから一年ものあいだ立つことすらできないという長い未熟な期間があります。他の動物なら考えられない一見無駄に見えるこの長い幼児期が脳の進化に貢献したという考えです。ある程度成長してしまうと脳の成長も固定され止まってしまうので、柔軟で何でも吸収する幼児期をいかに長くするかが進化において重要になってくるというわけです。
さらに人間の生殖能力になってくると生まれてから十数年掛かります、 生物としては未完成な時期が十数年も続くわけです。人間はネオテニー化を進める一番の生き物とも言えます。

話がどんどんズレていきそうですが(これはトレードの話です)、これらから言えることは自然界では変化に適応するために獲得した進化をあえて止めて選択肢を増やすという行為をします。

変化に対応できる柔軟さとは(高度な意味で)完成させないこと、未完成を維持することと言えます。もちろんそれは大きなリスクも伴います。サルが人間と同じように幼児期を長くしたら多分絶滅します。未完成を維持しつつリスクも最小限に抑えるという高度なバランスが必要になってきます。

トレードでも柔軟さが重要でそれを保つバランス能力が最も難しいところだと思います。
初心者のときに必ず通る聖杯探しやその後も延々続ける努力も、完成した何か、確立された何かを見つけたいという欲求です。しかし完成したものというのは想定外の変化が訪れると簡単に崩壊してしまうものです。完璧であればあるほど通用しなくなってきます。それは見つけたと思ったとたんに手からするりと抜けていきます。

ランダムウォークするマーケットでは完成されたものは通用しないという矛盾が生まれます。手に入る情報や知識を片っ端から吸収吟味して武装することは当然のことですが、その上でそれを固定しない柔軟さを維持する能力が必要になってきます。
ただこの能力は努力とか知識とかで身に付くものではありません、一番重要なところがどうあがいても手に入らないわけです。多くのトレーダーの挫折がここを境にしているのだと思います。これを乗り越えるには天性のものを始めから持っているか、あるいは長い時間をかけてひたすら経験を積み重ねることなのかな、という気がします。


人間は何かを達成しようとする時それを完成させ固定させる方向へ努力をしようとします。しかしダーウィンの言葉どおり重要なのは変化に対応できる柔軟さです。それは自分を固定してしまっては手に入りません。


Share:

0 コメント: